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長崎地方裁判所 昭和32年(ワ)157号 判決

原告 浦川純夫

被告 福宝商事有限会社 外一名

主文

一、被告福宝商事有限会社が、訴外松本利平に対する長崎地方法務局所属公証人武本登康作成の第一〇八三九八号公正証書の執行力ある正本に基き、昭和三十二年四月二日、別紙第三目録記載の物件に対して為した照査手続による強制執行及び被告高尾ツキが 右訴外人に対する長崎簡易裁判所昭和三十一年(ハ)第二七〇号事件の判決の執行力ある正本に基き、同日、同物件に対して為した照査手続による強制執行は、孰れも、之を許さない。

二、訴訟費用は被告等の平等負担とする。

三、当裁判所が、昭和三十二年六月二十二日附で為した、原告と被告高尾ツキ間の、昭和三十二年(モ)第二三三号強制執行停止決定は、之を認可する。

四、本判決は、前項に限り、仮に、之を執行することが出来る。

事実

原告は、

主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、(1) 、訴外株式会社福岡相互銀行は、その債務者たる訴外松本利平に対する強制執行として、右松本に対する長崎地方裁判所昭和二十九年(ワ)第三〇三号事件の判決の執行力ある正本に基いて、昭和三十年十二月二十七日、別紙第一物件目録記載の物件を差押へた。

(2) 、被告福宝商事有限会社は、その債務者たる前記訴外松本利平に対する強制執行として、同人に対する長崎地方法務局所属公証人武本登康作成の第一〇八三九八号公正証書の執行力ある正本に基いて、昭和三十一年三月七日、前記物件に対し、照査手続による差押を為すと同時に、別紙第二目録記載の物件を差押へた。

(3) 、被告高尾ツキは、その債務者たる前記訴外松本利平に対する強制執行として、同人に対する長崎簡易裁判所昭和三十一年(ハ)第二七〇号事件の判決の執行力ある正本に基いて、昭和三十一年十月五日、前記第一及び第二物件目録記載の物件に対し、照査手続による差押を為した。

二、(1) 、その後、前記訴外福岡相互銀行は、前記訴外松本利平に対する追加強制執行として、前記(1) に掲記の判決の執行力ある正本に基いて、昭和三十二年四月二日、四月二日、別紙第三物件目録記載の物件に対し、追加差押を為した。

(2) 、この為め、被告福宝商事の為した前記(一)の(2) 、被告高尾の為した前記一の(3) の各照査手続による差押が、右第三物件目録記載の物件に対し、差押の効力を生じ、右各被告が、同日、右物件に対し、照査手続による差押を為したこととなつた。

三、然るところ、右第三物件目録記載の物件は、原告の所有であつて、前記訴外松本利平の所有ではないから、右物件は、同人の、前記各差押債権者に対する債務の責任財産には、属しないものである。従つて、右物件が、その責任財産の範囲に属するものとして為された、前記各強制執行は、孰れも、不当であるから、原告は、その各執行の排除を求めることの出来るものである。

四、然るところ、訴外福岡相互銀行は、その後、右第三物件目録に対する前記差押を解放したので、その執行は消滅したが、被告等は、その各照査手続による差押を維持して居るので、それ等の差押は、未だ、継続して居る。

五、仍て、右物件に対する、被告等の、右各照査手続による強制執行の排除を求める為め、本訴請求に及んだ次第である。

と述べ、

立証として、

甲第一乃至第五号証を提出し、

証人松本利平の証言並に原告本人尋問の結果を援用した。

被告会社は、

請求棄却の判決を求め、答弁として、

差押関係の事実は、之を争はないが、本件物件が原告の所有であることは之を否認する。

と述べ、

甲号各証の成立を認めた。

被告高尾は、

本件口頭弁論期日に欠席したので、その提出に係る答弁書は、之を陳述したものと看做した。

右答弁書によると、被告高尾の答弁は、次の通りである。

一、請求の趣旨に対する答弁。

(1)、原告の請求を棄却する。

(2)、訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の原因に対する答弁。

(1)、差押関係の事実は、之を争はない。

(2)、本件物件が原告の所有であることは、之を否認する。

当裁判所は、

職権で、原告本人(第二回)及び被告会社代表者の各尋問を為した。

理由

一、原告主張の請求原因(一)の(1) 乃至(3) 及び二の(1) の事実は、孰れも、当事者間に争のないところである。

二、而して、有体動産の強制執行に於て認められて居るところの照査手続は、債権者平等の原則に基いて、差押の範囲を拡張し、各差押債権者に対し、差押物件全部によつて、同一の手続に於て、平等の割合で弁済を受けしめようとする制度であるから、照査手続の為された後に於て為された差押に対しても、その照査手続は、その効力を生じ、各債権者の為めに、差押の範囲が拡張されるものと解するのが相当である。従つて、照査手続の為された後に、更に、差押が為されたときは、その差押のあつた時に於て、その差押物件に対し、照査債権者が、照査手続を為したものと認むべきである。

故に、請求原因二の(1) の差押が為された時に於て、同一の(2) 及び(3) の照査手続を為した被告等は、夫々、本件物件(別紙第三物件目録記載の物件)に対し、照査手続を為したものと認められる。従つて、被告等は、夫々、右二の(1) の差押の為された日である昭和三十二年四月二日に於て、右物件に対し、照査手続による差押を為したこととなる。

三、而して、右物件が、原告の所有に属するものであることは、証人松本利平の証言及び原告本人の供述(第一、二回の尋問に於ける供述)並に被告会社に対する関係に於て成立に争がなく、被告高尾の関係に於て真正の成立を推定される甲第四号証(公正証書)を綜合して、之を肯認することが出来る。

右認定に反する根拠は一も存在しない。

四、右認定の事実によると、本件物件が、訴外松本利平の所有に属しないものであることが明白であるから、それが、同訴外人の所有に属するものとして為された前記差押及び被告等の照査手続による差押は、全部、不当である。

(尤も、訴外福岡相互銀行が、本件物件に対して為した差押が、その後、解放されたことは、原告本人の供述(第二回)によつて、明白であるから、その分の差押は、既に、消滅に帰して居る。)

従つて、原告は、右物件の所有者として、被告等に対し、同人等が、夫々本件物件に対して為した前記各照査手続による強制執行の排除を求めることが出来る。故に、原告の本訴各請求は、孰れも、正当である。

五、仍て、原告の被告等に対する本件各請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を適用し、尚、被告高尾に対する関係に於て為された強制執行停止決定は、正当であるから、同法第五百四十九条第四項、第五百四十八条に則つて、之を認可した上、この部分について、仮執行の宣言を附し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

第一物件目録

(訴外福岡相互銀行が昭和三十年十二月二十七日差押へた物件)

一、応接丸テーブル 一個

二、折タタミ椅子 二脚

三、片袖付高机 一脚

四、硝子戸付書棚 一個

五、ラジオ 一個

六、角花台 一個

七、長椅子 一脚

八、丸椅子 一脚

九、事務用椅子 一脚

一〇、廻転椅子 一脚

一一、螢光燈(卓上) 一個

一二、鏡 一個

一三、ストーブ 一個

一四、杉正三寸角十尺のもの(二等品) 二〇石

一五、〃三寸五分角二間のもの(一等品) 二〇石

一六、檜二寸五分角十尺のもの(二等品) 一〇石

一七、二間板割り(五分) 二〇石

一八、杉平割十三尺二寸(一等品) 二〇石

第二物件目録

(被告福宝商事が昭和三十一年三月七日第一物件目録記載の物件に対し照査手続を為して未差押物件として同時に差押へた物件)

一、片袖付卓子 二脚

二、本箱 二個

三、布張椅子 一脚

四、丸椅子 四脚

五、事務用椅子 二脚

六、手提金庫 一個

七、黒板 二個

八、柱時計 一個

九、杉板二間のもの(三分、四分、五分取りまぜ) 五〇石

第三物件目録

(訴外福岡相互銀行が追加差押として昭和三十二年四月二日差押へた物件)

一、黒塗造茶棚 一個

二、洋服タンス 一棹

三、硝子戸付本箱 一個

四、座机 一脚

五、陶器火鉢大型 一個

六、六ツ抽斗付整理箱 一個

七、角応接合 一脚

八、三ツ抽斗付整理箱 一個

九、洋服タンス 一棹

一〇、掛時計 一個

一一、板戸付大型茶棚  一個

一二、台所調理台高台  一個

一三、袋戸付チークタンス 一棹

一四、三重チークタンス 一棹

一五、ポンド 一個

一六、六ツ抽斗付板戸付茶棚 一個

一七、火鉢中型 一個

一八、硝子戸付茶棚 一個

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